忍音とはその年の時鳥(ほととぎす)の初鳴きのことです。が、作中に時鳥そのものの姿はなく、替わりに空木(うつぎ)の花、いわゆる卯の花を沈金で埋め尽くしました。この花は例えば「竹に雀」の様に昔から時鳥とセットの題材として取り上げられて来ました。
自宅の徹夜仕事でそろそろ夜が開けようかと言う頃、薄明をついて響いてくる時鳥の声は寝不足の頭には一層、深く遠いあの世とも言うような世界から語りかけて来るように聞こえてきます。(そんな感じの民話も多いです。)
写真では少し分かりづらいかもしれませんが側面は一旦、全面掘り尽くした後に緑の色漆と黒漆でぼかしながら塗りこんで平滑に研いで磨いてあります。あのなんとも言えぬ神秘的な初夏の夜明けを表現したいと思いました。
一見すると地味で在りがちな作品にも見えるかも知れませんが自分にとっては代表作と言いたいくらい思い入れの深い作品です。